2023年11月30日、日本の法務大臣へ提出された最終報告書を基に、技能実習制度の後継として提案された「育成就労制度(仮称)」について解説します。この新制度である「育成就労」は、日本の高度な技術を開発途上国へ移転し、開発途上国の経済発展に貢献することを目的とした人材育成を核としています。
参考:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議
技能実習廃止と新制度創設の背景
長年にわたり、技能実習制度は国際社会から批判を受けてきました。職場環境における人権侵害、違法な労働条件、賃金未払い、失踪問題、不法就労などといった多くの社会問題を引き起こしていると指摘されています。これらの問題を解決し、より公正かつ効果的な制度を構築するため、政府は2023年11月24日に技能実習制度の廃止と新たな「育成就労制度」の導入を決定しました。この育成就労制度は、2024年の通常国会を目処に新しい在留資格として創設される予定です。
育成就労制度の特徴
育成就労制度は、在留期間を基本3年と定め、最終的に特定技能1号レベルの人材育成を目標としています。さらにこの制度において、より高度な特定技能2号の試験に合格すると、家族帯同や就労条件の緩和などが可能になります。また、特定技能2号の場合、技能実習制度では許可されていなかった転職も、一定の条件下で認められるようになります。これにより、外国人労働者はより安全かつ公正な環境で働くことができ、柔軟なキャリア構築が可能となります。
さらに、育成就労制度は、特定技能制度の対象である12の職種と対応しているため、在留資格の移行をスムーズに行い、外国人労働者の長期雇用とキャリアアップを促進します。また、日本語能力試験(JLPT)による日本語能力の要件が設定され、日本人とのコミュニケーション問題の軽減が期待されます。外国人労働者が日本社会で生活しやすくなる環境が創出され、彼らの生活の質向上に寄与すると考えられます。
制度の比較
技能実習制度と育成就労制度について、4つの項目で比較します。
制度の目的
技能実習 | 技術移転による国際貢献 |
育成就労 | 人材の確保・育成 |
技能実習制度は、開発途上国の経済発展を支援する人材を育成することを目的とした国際貢献を目的とする制度です。一方で、育成就労制度は特定技能1号に移行可能な人材の確保と育成を主要な目的としています。
国際貢献という本来の目的と実際の制度運用の間に乖離があるという技能実習制度に対する指摘があり、国際的にも問題視されてきました。育成就労制度では、人材の確保・育成を主な目的に据えたことで、制度の方向性がこれまでに比べてより現実的かつ明確になりました。
移行条件
技能実習 | 受け入れ前: 6ヶ月以上または360時間以上の講習 技能実習2号移行 : 技能検定基礎級の合格 技能実習3号移行: 技能検定3級の合格 |
育成就労 | 受け入れ前: 日本語能力試験(JLPT)N5相当の日本語能力 受け入れ後1年以内:技能検定基礎級合格 特定技能1号移行: 日本語能力試験N4合格+ 技能検定3級または特定技能1号評価試験合格 特定技能2号移行: 日本語能力試験N3合格+ 技能検定1級または特定技能2号評価試験合格 |
技能実習制度では、受け入れ前に6ヶ月以上または360時間以上の講習が必要です。技能実習2号への移行には技能検定基礎級の合格が必要であり、技能実習3号への移行には技能検定3級の合格が必要とされています。
一方、育成就労制度では、受け入れ前にN5レベルの日本語能力が求められ、受け入れ後1年以内に技能検定基礎級の合格が求められます。特定技能1号への移行には日本語能力試験N4と技能検定3級または特定技能1号評価試験の合格が必要で、特定技能2号への移行には日本語能力試験N3と技能検定1級または特定技能2号評価試験の合格が必要です。育成就労制度では、日本語能力がより重視されるようになります。
育成就労制度の基本的な在留期間は3年です。3年以内に上述の試験に合格し、在留資格を特定技能に移行することが求められます。
転職・転籍
技能実習 | 原則不可 |
育成就労 | 就労期間など条件をクリアした場合に可能 |
技能実習制度では原則的に転職が認められていませんが、育成就労制度では同一企業に1年以上就労などを始めとする、以下3つの条件を満たした場合に転職が可能です。
- 同一の受入れ機関で1年以上就労
- 同一業務区分内での転職
- 技能検定基礎級及び日本語能力試験のN5に合格
この方針では、地方から都市部への人材流出に対する懸念に鑑み、一定期間(少なくとも1年以上)は転職を制限する経過措置の導入が検討されています。また、転職先の企業には、受け入れた外国人労働者の比率が一定の割合を超えないよう基準を設けることに加えて、転職前の企業が負担した初期費用の一部を分担することが求められます。
支援・保護機関
技能実習 | 技能実習機構 |
育成就労 | 支援・保護機能を強化した新機構 |
育成就労制度のもとで、外国人技能実習機構は再編成され、新たな機構が設立されます。この新機構は、より厳格な監督下で制度の運営をすることになり、外国人技能実習生の支援と保護を強化することを目的としています。
さらに、新機構は出入国在留管理庁や労働基準監督署との連携を強化します。これにより、制度運用における法律の遵守がより一層重視されることとなります。この連携強化は、技能実習生の権利保護と適切な労働環境の整備に寄与することが期待されています。日本国内での外国人労働者の適切な管理と支援を通じて、国際的な労働基準の遵守を目指します。
今後の展望
技能実習制度から育成就労制度への移行は、日本が国際社会の批判に応じ、より公正かつ効果的な外国人労働者の受入体制確立に向けた意思を示しています。
現段階で育成就労制度は「案」として提案されており、制度が正式に決定されるまで内容に変更が生じる可能性があります。今後もこの制度に関する最新情報を提供していきますので、ぜひ注目してください。