今回は、日本のレストランやホテル、コンビニなどのお店で目にする、日本の「接客」についてお話します。みなさんは「おもてなし」という日本語を聞いたことがありますか?
「おもてなし」とは、心を込めてサービスをすることです。日本は、この「おもてなし」を、昔から大切にしてきました。日本のサービスが、世界でも評価が高いのは、この長い「おもてなし」の歴史があるからです。
しかし、私は、この「おもてなし」が日本の「誇り」である一方、「サービスのしすぎ」につながっていると思います。サービスを「しすぎる」ことで、お客さん側が、王様のように、えらそうな態度を、とる可能性があるのは、良くないと考えます。
「サービスのしすぎ」の例をあげます。
日本のお店でシャツを1枚買います。お会計のあとに、お店のスタッフから「ありがとうございました。お店の出口まで、シャツをお持ちします。」と言われます。レジから入り口までの10メートルくらいを、店員さんと一緒に歩きます。出口に着くと、買ったシャツを受け取ります。
このスタッフさんがシャツを持ってくれる「10メートル」は必要だと思いますか?「シャツ1枚くらい、自分で持てるよ!」と私は思うのです。
(ちなみに、なぜこれをするのか、というと、お客さんへの「おもてなし」と、他のお客さんに、「このお店は人気だ」と見せるために、この接客をしているそうです。)
もうひとつの例です。
日本で電車に乗っているとき、台風などを理由に、電車が止まってしまうことがあります。このとき駅のアナウンスで「みなさま、ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。」という声が、何回も聞こえます。
「台風は、駅のスタッフのせい、ではないのに、どうして何回も、あやまるのだろう」と私は思うのです。
日本にはこうした、「おもてなし?」と、思う「接客」がたくさんあります。
日本が人材不足に悩む中で、これから多くの外国人が活躍して、日本の「接客」を学ぶことになりますが、多くの人にとって、「どうしてこんなことをしなくては・・」と思うことがあるかもしれません。
そんなときのために、接客のルールと、その意味をここで、説明したいと思います。
日本人の「おじぎ」
日本人のイメージといえば、この写真が合っているのではないでしょうか。日本人のコミュニケーションにおいて、「おじぎ」は基本の動きです。「おはよう」「さようなら」「おつかれさま」「ありがとう」「ごめんなさい」どんな時でも「おじぎ」をします。
「おじぎ」は、アジアの他国でもある文化ですが、日本では「あなたに抵抗しません」という気持ちを表すものから、「おじぎ」が文化になった、と言われています。頭を下げたら、相手が見えなくなるので、相手を信用していないと、おじぎは出来ませんよね。
3つの「おじぎ」
なお、「おじぎ」には3つのタイプがあります。
上体を15°曲げる「会釈」、30°曲げる「敬礼」、45°~90°に曲げる「最敬礼」です。これらは、シチュエーションによって、使い分けます。
- 会釈(15°)・・・「こんにちは」などのあいさつ。人とすれ違うとき。
- 敬礼(30°)・・・「ありがとうございました」などのお礼や、相手に気持ちを伝えるとき。
- 最敬礼(45°)・・・「本当にありがとうございます/本当に申し訳ありません」と強くお礼、または、謝る、お詫びを伝えるとき。
この「おじぎ」を日本人は、学校や会社の研修で、必ず練習するものであり、日本では大切な動作のひとつです。なお、「おじぎ」は、下を向きながら声を出すことは、相手に気持ちが届かないため、してはいけません。「ありがとうございます」、「すみませんでした」と目を見て伝えてから、頭を下げます。
「おじぎ」のエピソード
ここで、おじぎに関するエピソードをひとつ。
2009年、当時アメリカのオバマ大統領が、日本の天皇陛下に挨拶したとき、「おじぎ」をしたシーンがニュースになりました。日本では「オバマ大統領が日本の文化を理解し、おじぎをした」と良い評価する一方、アメリカでは「大統領が頭を下げるなんて」と、悪い評価をするメディアがありました。
このときのオバマ大統領の「おじぎ」は、腰を45°以上曲げた姿勢、「最敬礼」のスタイルでした。アメリカからすると「この姿勢は大統領がするべきではない」という考え方であり、また、世界には「頭を下げること」を「良くない」と考える文化もあるそうです。みなさんは、このオバマ大統領の「姿勢」を、どう思いますか。
また、「おじぎ」が習慣である日本人は、たとえば、政治家が海外の政治家と「握手」をするときも、手を握りながら、「おじぎ」をするシーンをみることがあります。この「おじぎ」&「握手」という新しいスタイルは日本人だけの、ものかもしれません。
日本の接客について
話を「接客」に戻します。私は学生時代、 レストラン、居酒屋、バーなど、たくさんの日本の飲食店でアルバイトをしていました。その経験からアドバイスしたいと思います。
日本のレストランには、レストランを運営する本社の人が「お客さん」のふりをして来店し、スタッフの接客を評価するテストがあります。私は一度、店員としてそのテストを知らずに、受けていたことがあり、良い結果では無かったので、店長に怒られました。そのテストのときに聞いた、ポイントを次にまとめます。
「あいさつ」
お客さんが来るとき、帰るとき、には、必ず「いらっしゃいませ/ありがとうございました。」という声かけが、絶対に必要です。これは料理を作る、キッチンの人も、お客さんが見えるところに出れば、同じです。
あいさつをしないスタッフが一人でもいれば、お店の雰囲気が悪い、というお店全体の評価になります。「あいさつ」することで、お客さんが話しかけやすい雰囲気を作ることが大事です。
時間を伝える
日本は、電車が3分遅れるだけで、駅のスタッフが、謝り、遅れたことを証明する「遅延証明書」を発行する国です。1分や2分の短い時間でさえも、飲食店においてでも、とても大切だと、理解してください。
特に、料理を出すのが遅くなるときには、お客さんにあと何分待ってもらいたいのかを、伝えることが大切です。「あと、ちょっとです」などと言うと「ちょっと、って何分ですか」と聞かれることもあります。
オーダーした料理が出ているか、デザートを出すタイミングはいつか、お客さんに声かけをして、注意してください。
距離をおく、人の後ろに立たない
日本人の「パーソナルスペース」は、他の国よりも、広いと言われます。他人との距離を広く取るのが、日本の文化のひとつです。たとえば、注文を取るときに、1メートル以上の距離を空けずに、近づいたりすると、日本のお客さんは怖がります。
また、日本では、人の後ろに立つことは、良くありません。日本の「サムライ」が「俺のうしろに立つな!」というフレーズは有名です。 体の後ろのスペースに「恐れの位置」という名前があるほど、このスペースは、気にしなければなりません。
これは私の体験ですが、ベトナムでお店に行くと、よく後ろにスタッフの人が立っていることがあります。何か手伝ってくれようとしているのは、わかるのですが、このとき、やはり、私は「スタッフの人が攻撃してくるかも・・」と怖くなるのです。
また、これは、電車やバスを、待っているときなども同じです。 「後ろから押されるのでは・・」と怖い気持ちになるのです。
レストランなどでは、「どこに立つべきか」を、気にかけてください。
謝る
飲食店では、トラブルが起きることは、あると思います。こうしたときに、あなたが悪いことを、していなくても、「申し訳ございません。」と謝ることが必要なシーンがあるかもしれません。
これは、お客さんのテーブル担当として、お店を代表して、「お詫び」を伝える意味があり、日本のお客さんと、うまくコミュニケーションするためには、必要な「接客」です。
ただし、自分で全て答えようとせずに、「申し訳ございません。店長(またはマネージャー)に確認を取りますので、少々お待ちください。」と伝えると良いでしょう。日本人のスタッフでさえ、こうしたトラブルを、はじめから上手に解決できる人はいません。
こうしたトラブルは落ち込みますが、「勉強になった」と思い、次から良いサービスが出来るようがんばりましょう。
なお、「すみません」というお詫びの言葉を「すいません」という人がいますが、これは正しい日本語ではないため、注意してください。
料理は、オーダーのとおりに。
これは、どこの国でも同じで、「アイスコーヒー」を頼んだのに、「ホットコーヒー」が出てきたらお客さんは怒ると思います。こうしたことに加えて日本では、次のようなクレームがあります。
- 温かい料理が、冷めている。
- 料理に髪の毛、小さなゴミ、虫が入っている。
- 料理の出す順番が違う。(サラダが一番先に出てくるべき)
- 3つ頼んだ料理のうち、1つがいつまで待っても来ない。
料理を出すときには、テーブルを間違えない、だけではなく、料理が作られてから時間が経たないよう、髪の毛やゴミが入っていないか、注意してください。また、料理を出す前には、テーブル上の調味料、おはしやフォーク、紙ナプキンがセットされ、数が足りているか、しっかり確認しましょう。
また、お客さんが座る前に、テーブルが汚れていないか、テーブル下にゴミがないか、テーブル、イスが揺れたり、壊れていないか、確認してください。テーブルの上に水滴、スプーンやフォークに「水あか」が1つでもあると、お客さんは「キレイではない」と判断します。
私は、こうしたルールの中、飲食店で働きながら、「フォークくらい、自分で取りにいけばいいのに」と思ったことがあります。しかし、お客さんが、気持ちよく、おいしく、食べてもらうためには、自分の出来るベストなサービスをすることが大切だと学びました。
お客さんを喜ばせるのは、料理だけではなく、「接客」もそのうちの一つになるのだと思います。
レストランの接客に向いている人
レストランで働くひとは、次のようなタイプの人が、向いていると思います。
- 人とコミュニケーションをとることが好きな人
- キレイ好きで、細かな違いに気づきやすい人(机に〇〇がない、など)
- 同時にいろいろな仕事をこなし、忙しい仕事を楽しめる人
- 人が何を考えているか、求めているか、気を配ることが出来る人
- 体力に自信がある人(重いものを持ったり、遅くまで働いたりするため)
まとめ
レストランを例に、日本の「接客」についてアドバイスをしました。レストランだけではなく、ホテルやコンビニなどでも、大切なことは、「お客さんが何を求めているのか」気づくことができるスキル、だと思います。この「気配り」こそが「おもてなし」なのだと思います。
また、日本語を勉強している、みなさんには、日本人のお客さんの言うことが、わからないときが、あるはずです。こうしたときに「日本人のスタッフを呼んでください」と言われることが、あるかもしれません。
とても悲しい気持ちになると思うのですが、これもまた「勉強になった、次は答えられるようにしよう!」と思えば良いのです。
今、日本にあるレストランやコンビニでは、本当に多くの外国の方が働いています。多くの日本の人は、みなさんの仕事にとても感謝し、高い日本語スキルに、感心しています。
真面目に仕事をしていれば、きっと、だれかが見てくれています。お客さんにベストのサービスを出せるよう、いつも心がけてください。