とある日本の新聞に投稿された、ベトナム人留学生の文章が、日本で話題になったこと知っていますか?投稿されたのは次の文章です。
私は日本に来るまで、日本は立派な偉大な国だと思っていた。
来日当初も、街の発展ぶりや人々の生活の豊かさを見て、私の国ベトナムとの差は大きいと感じた。きっと日本人は自分の国に誇りを持ち、幸せだと感じているのだろうと思っていた。
しかし、来日から10カ月が過ぎた今、実はそうではないように感じる。日本は、世界でも自殺率が高い国の一つだという。
電車の中では、睡眠不足で疲れた顔をよく見る。日本人はあまり笑っていないし、いつも何か心配事があるような顔をしている。
日本人は勤勉で、一生懸命働いて今の日本を建設した。でも、会社や組織への貢献ばかりを考え、自分の成果を自分が享受することを忘れていると思う。
ベトナムはまだ貧乏な国だが、困難でも楽観的に暮らし、めったに自殺を考えない。経済的豊かさは幸福につながるとは限らない。
日本人は何のために頑張っているのか。幸福とは何なのか。日本人自身で答えを探した方がいいと思う。
千葉県 留学生 グエンさん
朝日新聞 2016年7月10日朝刊「声」欄
これに対する、日本人のコメントは次のようなものがありました。
- 良く日本人のことを理解している留学生だ。
- 日本人では気づかないことを、ベトナム人が教えてくれた。
- この人の言う通り。私は何のために生きているだろう。
- 日本人は感情を表に出さない、このベトナム人は日本文化を深く理解していない。
この文章は、ベトナム人から見た日本人のイメージを、うまく表現していて、すばらしいと私は思います。また、この文章によって、多くの日本人が「しあわせ」について考える時間を持ったことは、とても意味のあることだと思います。
日本人は「しあわせ」なのか
日本は、国民の「幸福度」に関する国際調査で、他の先進国に比べて、その値が低い、と言われ続けています。
日本人のSNSには、「会社(学校)に行きたくない」「休みがほしい」「もう疲れた」という投稿は見ますが、「私は幸せだ!」と喜びを表す投稿は、あまり見ることはありません。
また、「あなたは幸せですか?」と聞かれて、「はい、幸せです。」と答える日本人は、多くないと思います。なぜなら、「幸せ」であることを表現することは、日本人の習慣としてないからです。
「あなたは幸せそうですね」と言われても「いえいえ、色々と大変なんですよ」と否定するのが、日本の昔からの文化です。
本音と建て前
- 「ステキな奥さんですね」と言われても「いえ、とんでもないです」と答える夫
- 「お子さんは、良い子ですね」と言われても「いえいえ、家では、言うことを聞かない子です。」と答える親
実際に良い奥さん、子どもだと思っていても、こうした「返し方」は、日本において一般的です。
つまり、日本人は、「本音」と「建て前」が、はっきり分かれているので、彼らの本音を知ることは、相当の時間をかけて、親しくならない限り、分かりません。
このような文化を持つ日本人の表情から、外国人留学生が、名前も知らない日本人の「しあわせ」を読み取ることは、とても難しいと思います。
電車で、暗い、疲れた顔をしている会社員も、家に帰れば、家族が待っていて、外では見せない「笑顔」を見せる人がたくさんいるのです。私の父も、「会社」の顔(怖い人)と、「お父さん」の顔(やさしい人)、全く違う2つの顔を持っている人でした。
お酒を飲むと、いつも静かな日本人が、大きな声で話したり、騒いだりすることもあるので、外国人にとって、日本人は「不思議な人たち」なのだと思います。
自殺者が多い国、日本
日本では、例年、2万人以上の人が、自殺で命を絶っています。投稿された文章にある、「世界でも自殺率が高い国」というのは、正しいです。
特に最近では、10代の若者の自殺が増えていて、社会問題になっています。
日本は、経済成長とともに発展し、世界の先進国となりましたが、この留学生が感じた「街の発展ぶりや人々の生活の豊かさ」は、経済発展の後に生まれた日本人にとっては、「当たり前」の環境です。
その日本人に対し「こんな豊かな国で生まれて、あなたは幸せですね」と話しても、他の国と比較する機会が少ない日本人にとっては、「ありがたいこと」だと気づきにくいです。
また、文中にある「経済的豊かさは幸福につながるとは限らない」ということばのとおり、お金持ちの家に生まれた子どもが、どこの国でも、みんな「しあわせ」か、というと、それは違うと思います。
「しあわせ」の定義は人それぞれなので、他人の「しあわせ」を計ることは、難しいはずです。
背景にあるもの
どうして、日本は自殺率が高いのか、この答えを、私は2つ持っています。
①悩みを他人に共有できない性格
日本人、とくに男性は、自分の悩みを他人に相談することは、得意ではありません。自分の「弱さ」を人に知られたくないという「プライド」があるからです。
また、日本では幼い時から、「みんな苦労しているんだから、あなただけ辛いんじゃない」という教えが一般的です。公共の場で、小さい子どもが騒いでいると、「まわりの子どもは静かにしているよ、あなたも静かにしなさい」と、まわりと比較しながら、親が注意します。
こうした考え方は、日本人が悩んだときに、「周りの人は辛いなんて言わない」「自分の中で何とかしなくては・・・」と思ってしまう原因のひとつになっている、と私は考えます。
②自分が「うつ」であることに気づけない社会
日本は、「うつ」であることに気づきにくい社会だと言えます。なぜなら、先ほどの考え方にもあるように「みんな苦労している、あなただけ辛いんじゃない」ということばは、「うつ」の人に対して、「辛い、なんて言ってはいけない」「こんなことで悩んではいけない」という気持ちを持たせるからです。
私が働いていた日本の会社でも、「うつ」になった同僚、先輩、上司がいましたが、彼らが「うつ病」だということを知ったのは、彼らが通院のため、会社をお休みしたときでした。
「心理カウンセリング」が発達していない日本社会では、定期的にカウンセラーと話をしたり、悩みをだれかに相談できる機会は少ないため、日本政府を中心に「心のケア」が注目されています。
まとめ
「しあわせ」について、考えることは大切ですが、「しあわせ」の定義は人それぞれです。そして、人が「しあわせ」かどうかを決めることは、その人「自身」です。
「今よりもっといい人生にすることが、しあわせ」と考える人がいて、「今のままで、平和に暮らすことが、しあわせ」と考える人がいて、日本人は圧倒的に後者の考えの人が多いと思います。
ベトナムは経済成長を続ける国であり、この国の人は、「明日はもっといい日になる」と希望を持って暮らしていると思います。実はこれは、昔の日本も同じ状況で、「人々は裕福ではないけれど、明るい未来のために働いて、しあわせだった」と、私たちの親世代は話します。
将来ベトナムがこの経済成長を終え、先進国として国が豊かになったとき、人々が「うつ」に悩まず、未来に希望を持って、今までのように「楽観的」で「笑顔」でいられる国であるために、「しあわせ」に見えない日本社会を参考にすべきなのかもしれません。