ベトナム在住日本人インタビュー③日本語教師:宮谷先生

ベトナム在住日本人インタビュー③日本語教師:宮谷先生

日本人インタビューシリーズ、第3回目です。

今回は日本の愛知県立大学から11ヵ月間の研究活動でハノイにいらっしゃっている、宮谷敦美先生から、お話を伺うことができました。

長きにわたり日本語教育に携わってきた宮谷先生が、ベトナムハノイの地で、どのような研究活動を行い、何を感じていらっしゃるか、たくさん伺いたいと思います。

日本語学習者のみなさんにとって、とてもためになるお話が多いと思いますのでこの記事を読んでください。(本記事は言語タブ切替により、ベトナム語でも閲覧ができます。)

宮谷先生プロフィール

兵庫県出身。大学では日本語教育を専攻、学部3年生のときから日本語教師をはじめ、今年で30年目。
大阪の日本語学校や大学などでの日本語担当非常勤講師を経て、岐阜大学留学生センターで留学生対象日本語教育を担当。
その後、2007年から愛知県立大学で日本語教師養成に携わる。専門は日本語教育学だが、日本人と外国人が共に働く現場でのコミュニケーションをより深く理解したいと考え、日本語教師として働きながら、大学院で経営学の修士号を取得。
教材開発にも関心が高く、日本語教科書『日本語生中継』(くろしお出版、共著)、『生きた日本語で学ぶ中級から上級への日本語』(The Japan Times、共著)をこれまでに執筆する。
「ベトナム人の日本語学習者のみなさんが、日本語の面白さを実感できる教材を将来作ってみたい」と熱意を語る。

インタビュー

宮谷先生、本日は貴重なお時間をありがとうございます 。

Q1.先生が日本語教育に携わることになったきっかけを教えてください。

私が高校生のとき、当時国立国語研究所所長だった野元菊雄さんが「簡約日本語」という新しい考え方を発表して、新聞で大論争になりました。
「外国人に日本語をもっと学んでもらうためには、日本語をもっと簡単な構造にするべきだ」という主張だったのですが、当時は、不自然な日本語を用いることに対する批判が大きかったんですね。
その新聞記事を読んで、「日本語教師」という職業があることを知り、日本にいながらにして、いろんな外国の方と知り合うことができるなんて、すごくおもしろそうって思ってそれで、大学では日本語教育を専攻しました。
なんでも早く現場に出てみたい性格で、大学3年から、専門学校で教え始めました。気が付いたら、もう30年たってしまいました!

日本語教育に携わって30年ですか! 大学でも日本語教育をご専攻されて、一貫した日本語教育のキャリアをお持ちなんですね。

Q2.ベトナムで研究活動をするきっかけは何でしたか?

勤務している愛知県立大学で学外研究のチャンスをいただき、ベトナムで11か月間(2019年4月~2020年3月)研究活動できることになりました。
現在、ハノイ大学日本語学部の客員研究員として、ビジネス日本語教育と技能実習生送出機関の日本語教育や教師研修について研究しています。
愛知県は、工業、農業共に非常に盛んな県で、たくさんの外国人が働いています。もともと工場での外国人と日本人の日本語コミュニケーションの研究や、地域の日本語ボランティア教室の活動支援などを行っていたので、技能実習生や留学生として日本に来るベトナム人への日本語教育がどのような状況か知りたいと思い、ベトナムで研究活動をすることにしました。

愛知県はjNavi読者も多い県です。ハノイの日本語学校に訪問した際も多くの実習生の方が愛知県に行く、と話していました。日本だけでなく、海外現地で研究をなさる宮谷先生のお姿に、大変感銘を受けます。

Q3.日本語を教える中で感じるベトナム人の語学スキルの高さの特徴は何ですか 。

ベトナムでもときどき日本語を教える機会がありますが、ベトナム人の日本語学習を見ていて、ベトナム人が強いと思うのは、型を暗記して、すぐそれを使うことができる点です。それから、最初は少し人見知りしますが、慣れるとすごく積極的に日本語で話すところは、素晴らしいと思います。

Q4. ベトナム人の日本語学習における課題、苦手なものは何だと思いますか。

型を使うことが得意な反面、相手や場面に応じて調整するという点が苦手だという印象です。相手がコミュニケーションに期待していることを推測したり、相手と調整していく、といったやり方に慣れていないと思います。
例えば、会話の授業でいつも感じることですが、自分の言いたいことをとても長い文で説明するベトナム人が多くて(そんなに長い文を言えるのはすごいんですけど…)、日本人の印象だと、「決めつけている」「自分の立場だけ主張している」ように聞こえてしまうことがあるんですね。
日本語だと、もっと相手の反応を見ながら少しずつ話して、相手のあいづちや反応を見ながら話を進めていくんですが、多分こういうことについて学ぶ機会がないのかもしれません。

「空気を読む」ことだったり、「察する」文化は日本独特のコミュニケーション方法ですね。異文化による影響が大きいようです。

Q5.ベトナム現地で感じたギャップは何かありますか。

正直なところ、想像していたこととのギャップはあまりなかったです。ただ、私にとって初めての海外長期滞在なので、生活のいろいろな場面で「やっぱり自分は日本人だな」と感じることがあります。

一番私にとって難しいのは「曖昧さ」の受け入れでしょうか。スケジュールが決まるのがギリギリだったり、急に変更があったり、というのがなかなか慣れません。(笑) 
日本人は、「はい、いいえ」がはっきりしない、曖昧だと言われますが、「曖昧さ」が許されるトピックや範囲が異なることに気づきました。ベトナムでの生活は、自分の価値観などを見直すきっかけになっています。

宮谷先生は、お住まいのアパートで色々とお困りごとがあったと伺いました。たしかに、日本の「当たり前」が通じないときに、自身が日本人であることを自覚する日本人は多いと思います。

Q6.日越の人材&文化交流についてのご意見を教えてください。

これからますます日本とベトナムの人材交流は進んでいくでしょう。ベトナム人との交流は、日本社会でもベトナムの日系社会でも日本語で行なうことが多いと思います。
ベトナム人に言語学習の負担をお願いすることになるので、母語話者である日本人側も、ベトナム人のコミュニケーションのやり方について理解を深めることが大事だと思います。
ベトナム人がベトナムのやりかたや考え方をそのまま日本語に置き換えている場合が多いことを理解し、そこをちゃんとくみ取った日本語でのコミュニケーションができることが、日本人にも求められるのではないでしょうか。
そこで、ベトナム人のみなさんにお願いしたいのは、「日本のやり方」にあわせればいい(あるいはあわせたふりをすればいい)と思うのではなく、面倒でもベトナム人のやり方や考え方を日本人に説明してほしいと思います。
コミュニケーションで使用する言語は、日本語かもしれませんが、調整し双方が納得できる方法を協力して作り上げていく姿勢が互いに求められると思います。

Q7.ベトナム人が日本に行くときに知っておくべきことは何ですか?

日本社会の公的な場所でのルールは、ベトナムとかなり違います。日本についてSNSで情報を集める人が多いと思いますが、これらの情報には、実はデマや断片的な情報から判断されたものも多いことを理解しておくべきだと思います。
ですので、実際に日本で生活した経験のあるベトナム人や日本人に直接話を聞いたり、日本の企業や公的機関が運営しているサイトなどからも情報を取るようにしてください。
大事なのは、1つの情報で判断するのではなく、複数のメディアの情報を見て、思い込みをせず、冷静に考える習慣だと思います。

Q8.日本語学習者、これから勉強を始めるベトナム人へメッセージをお願いします。

日本語(外国語)学習は、自分たちとは異なる社会や文化、考え方に触れる機会です。日本語学習を通して日本社会や日本人について知ることによって、自分が大切にしていることを再確認したり、新しい考え方を取り入れ、自分の能力や可能性を拡げる機会にしてほしいです。

まとめ

宮谷先生は、ベトナムでの「日本語教育」の現状の調査の他にも、ベトナム人を雇用する日本人向けに「日本語コミュニケーション術」に関するセミナーや日本語教師研修など、幅広い活動をされています。

宮谷先生の研究活動の成果が、ベトナムの日本語教育の質の向上や日本企業とベトナム人スタッフとのよりよいコミュニケーションの方法につながっていくことをjNavi一同、願っています。

こうしたベトナムで活躍する日本人がいることを、知ってもらえる機会になればうれしいです。

宮谷先生、jNaviインタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

宮谷先生「ベトナムで調査したことをできるだけ還元できるよう、発信にも力を入れています 。」